ニコレットの部屋

Le Voyage de Nicolette

新日本海フェリー新造船の手がかり——「舞鶴~小樽航路に就航する新造フェリーによる省エネ実証事業」の実施計画書を見る

国交省海事局とエネ庁の発表*1によれば、新日本海フェリー舞鶴〜小樽航路に新造船が投入されるそうです。

後日公開された新日本海フェリー株式会社の第56期有価証券報告書(EDINETで閲覧できます)によれば、船舶は2隻建造し、1隻目が2025年12月に就航する予定です。

海事局・エネ庁発表の「舞鶴~小樽航路に就航する新造フェリーによる省エネ実証事業」は補助金*2が申請されたもので、新日本海フェリー資源エネルギー庁に申請書を提出しています。提出書類は行政文書ですから、応募要項を確認したうえで、資源エネルギー庁に行政文書の開示請求を行いました。経済産業省はe-Govでの開示請求に対応しておらず、かつ新日本海フェリー株式会社に意見の照会がなされ、開示に3か月弱を要しました。

実施計画書

実施計画書は新造船に導入する省エネ技術を説明しています。

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本船で採用する省エネ技術として申請されているのは次の4点です。

  1. 省エネ船型:ダックテール、大直径プロペラ、近接二軸、垂直船首
  2. 省エネ型減揺システム:新型フィンスタビライザ、船体付アンチローリングタンク
  3. 高効率推進プラント
  4. 航海支援システム eE-NaviPlan

省エネ船型について、本船では新規技術として、内航カーフェリー初のダックテール採用船となります。垂直船首等は新日本海フェリーの一世代前のフェリーである『はまゆう』『それいゆ』から引き継ぐものですが、全長が巨大船扱いを回避する199.0mに変更されるようです。

一般に、国内フェリーは巨大船の扱いを受けないよう、全長を200m未満にしています。新日本海フェリーの1,000km航路に入る高速船はその例外で、『はまなす』『あかしあ』が「船型の最適化の結果*3」200m超で造られ、『すずらん』『すいせん』、『はまゆう』『それいゆ』まで引き継がれてきました。『はまゆう』『それいゆ』が約5年前と比較的最近の設計であることを考えると、200m超とすることが流体力学(?)の観点からは望ましいものの、ドックダイヤ中に新潟や秋田に入れるとか、新門司~横須賀航路の荒天時に夜間でも瀬戸内海を航行できるようにしたいといった、何かしらの利点があって巨大船を回避したのでしょうか(論理立てた推測ではないので、オタクの妄想と流してください)。

船型に関して、省エネ船型とは関係ないですが、『はまなす』『あかしあ』と同様、車両甲板後方の斜め方向のスロープが左右に設置されているのが確認できます。新日本海フェリーのほとんどの船には右側しかついていませんが、舞鶴港では左舷側で接岸するので、舞鶴に就航する船ならではと言えます。

省エネ型減揺システムに関する記述は、非開示となった部分が多くありました。目隠しがされていない部分を見る限り、アンチローリングタンクの性能向上と、自動発停機能によるフィンスタビライザの展開時間短縮により省エネを実現すると読めます。フィンスタビライザが省エネに寄与するというのは疑問点でしたが、エネルギー効率の点では不利なフィンスタビライザの展開を最小限にする、ということでした。

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船舶の概要を示します。なお、表中『あかしあ』の総トン数や旅客定員数は、新日本海フェリー一般旅客定期航路事業の使用船舶明細書と異なり、最新のものではないようです。

旅客定員数が298名であり、『はまなす』『あかしあ』から大幅に削減されることになります。主機関はバルチラ14V31 8,540kW×4で、計画上は速力も28.3knと、『はまゆう』『それいゆ』を引き継ぐ部分が多いように感じます。

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本事業による被代替船『あかしあ』からのエネルギー消費削減率は5.0%と計算されています。

そういえば、『らべんだあ』『あざれあ』で空気潤滑システム(MALS)というものが導入されていましたが、もう採用しないのでしょうか。

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今年度(2024年度)から建造されるようです。三菱造船だと思いますが、全長200m以下は下関で造ることが多いのでしょうか。そろそろ三菱重工業から受注の発表があってもおかしくないと思うのですが。

*1:資源エネルギー庁『令和5年度「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(内航船の革新的運航効率化実証事業)」に係る補助事業者の公募の結果について』(令和5年3月9日付) https://www.enecho.meti.go.jp/appli/public_offer_result/2022/0309_01.html

*2:資源エネルギー庁『令和5年度「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(内航船の革新的運航効率化実証事業)」に係る補助事業者の公募について』(令和5年1月31日付) https://www.enecho.meti.go.jp/appli/public_offer/2022/0131_01.html

*3:上田直樹, 沼口哉. 世界初のハイブリッド型CRPポッド推進高速フェリー. マリンエンジニアリング. 2005, 40(2). p. 209-214. https://doi.org/10.5988/jime.40.2_209